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『戦争をしなくてすむ世界をつくる30の方法』
2003 平和を作る17 人(著) 田中優, 小林一朗, 川崎哲(編) 合同出版 



 †ピースウォークと、そのあと

 3 月20 日。イラクへの攻撃がついに始まってしまったとき、それまでピースウォークで平和を訴え、共に歩いた人たちは、何を感じただろう。夕刻からは、開催中だった世界水フォーラムの公式会場を取り巻くように〈キャンドル・ヴィジル〉が行われ、多くの人が集まり、悲しみとも悔しさともつかぬ複雑な表情で、静かなる意思表示をした。
 そしてあの夜を最後に、以降の平和アクションに参加する人の数は減っていった。
 ピースウォークは従来の社会運動の枠を越えて“普通の人たち”をも巻き込む力を持った。街頭で意思表示することは、“普通の人たち”にとってまったく新しい体験だった。しかし、「結局止められなかった」ことの無力感は、再び多くの人たちを具体的アクションから遠ざけてしまったかに見える。
 だが人々が考えることをやめ意思表示をあきらめれば、確実に「次の戦争」は容易になる。
 そんな中で、8/15 に出たこの本は、ただ「祈る」だけでない、「NO WAR」と叫ぶ以外にある、平和との付き合い方をさぐり、次の戦争を防ぐために「戦争を支持する仕組み」そのものを変えていく方法を、様々な角度から提案している。以下、いくつかを取り上げてみよう。


 †視点を変える、気軽に行動してみる

 マスメディアが大量の情報を垂れ流す中で、「考えなくてもよい、感情に訴えかける映像や言葉」だけを事実だと思い込まされてしまう――という、自由主義社会で行われる「情報操作」のやり方に注意を喚起することから始まり、独立系メディアの利用法や、「テロリスト」というレッテル貼りが逆に「国家テロ」を覆い隠している事例を紹介している(インドネシア政府が「テロリスト」と呼んで非人道的な弾圧を行っているアチェ独立運動が、日本のODA で建設された天然ガス精製工場による生活破壊に起因するものだ…など)。
 「戦争をしない意志」を広げていくために、市民同士の交流、大使館訪問、地方議員と話してみる、NGO をサポートする、自分の考えを人と話し合う…など、大小さまざまな具体的提案もある。


 †カネの流れから戦争をとらえ直す

 だが、この本で一番面白いのは、お金の流れから戦争を支える仕組みを考え、その仕組みを変えていく手段を考案している部分だ。
 まずは日々の買い物が企業への意思表示であることを意識し、例えばブッシュ政権に多額の献金をしている企業の製品について、戦争支持撤回まで買い換えをやめると通知する「遅買運動」を提案。フェアトレードのように商品選択の基準に環境だけでなく人権・平和を考慮することは、グリーン・コンシューマーならぬピース・コンシューマーとでも呼べそうだ。
 さらには貯金の預け先を考え直すことが提案される。イラクでの戦費調達のためにアメリカが発行した国債のうち、日本は5兆円分を購入したが、その資金のもとを辿ると私たちが銀行に預けたお金だと考えられる。一般の銀行が日本銀行に持つ当座預金の増加分が、日本銀行が政府から引き受けた政府短期証券の額と一致し、政府はこの資金でアメリカ国債を購入、アメリカはイラク戦争の戦費を調達した…ということだ。銀行のディスクロージャー誌で財務諸表を見て、預金が外国証券に投資されている比率が高い場合、イラク戦争に預金が流れていった可能性が高いと判断できるとのこと。郵便貯金が財投を通じて無駄な公共事業やODAに使われていることは比較的知られているかも知れないが、農業自由化に反対している各地の農協に農家が預けたお金が、農林中金証券を通じて、貿易自由化を強力に推進している世界銀行の債券購入にあてられていることは知らなかった。
 すぐに使う予定のないお金の使い方としては、自分の応援する会社の株式を買う、ドル建て以外で支持したい国の国債を買う、支持したい地方自治体の地方債を買うなどの他、社会的責任投資(SRI)の試みの一つとして「未来バンク」のようなマイクロクレジットが紹介されている。このような取り組みが日本でももっと広がれば、社会運動の風景も見通しが良くなっていくかも知れない。
 この本では、戦争をすることで結局だれが得をするのか、具体例を挙げて利益の流れとして描かれているが、そうなると次に考えるべきは化石燃料依存からの脱却だ。自然エネルギーは気紛れなオモチャの域を脱し実用に耐えるものになっているし、冷蔵庫やエアコンなど家電製品では電力消費が10 年前の半分以下の省エネ機種が低価格で販売されている。太陽光発電や太陽熱温水器の導入や各種省エネ製品への買い換えに、マイクロクレジット的な融資を組み合わせて脱化石燃料社会を後押しするというアイデアも語られる。


 †「次の社会」のしくみをつくる

 戦争にただ反対を唱えるのではなく、カネ・エネルギー・軍需という3つの戦争の動機を無効化する仕組みを作ろうと呼びかける本書のメッセージには未来への展望と希望がある。官でも民でもない〈市民セクター〉という第3の道を社会の中で実現するために、「中間法人」という有限会社に似た非営利法人の形が利用できることも紹介されている。
 「一人一人が頑張る」で終わらせるのではなく、人々が手を結んで未来へと続く仕組みを作ることで、そしてデモと集会と講演会をやる以外に、市民セクターを現実のものとして活性化することで、「もう一つの世界」はより現実的なものになるだろう。(島田 kattac6号より転載)


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