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『世界の半分が飢えるのはなぜ?: ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実』
2003 ジャン・ジグレール(著) たかおまゆみ, 勝俣誠(訳) 合同出版  



 どこかで見たようなタイトルだが、これはスーザン・ジョージではない。飢餓の現場をよく知る著者ジグレールが、息子との対話形式で中高生から読めるようわかりやすく語っている。
 今も昔もマルサス流の人口論を信じて、戦争や飢餓による人口調節機能を肯定する人たちは、教育レベルの高低に関わらず結構多くいて、貧困地域では他に娯楽がないから子供をどんどん作るんだ…と真顔で言って恥じない人を何人も見たことがある。著者はマルサスの考え方が「心にささやくんだと思う」と言う。正常な感性では直視できない飢餓の現実に目をつむるために「このエセ理論に頼っている」と。
 しかも私たちが目にする骨と皮ばかりにやせ細った飢餓難民の姿すら「メディアにとって都合のいい部分だけ」で、「餓えている人びとの中でもまだ十分余力があって、歩きつづけて国境をこえ、キャンプ地にたどりつくことができた人びと」なのだ。辿り着けなかった文字通りの死体の山は、決してテレビに映し出されることはない。
 キャンプにたどりついても、生き延びる見込みがあるかどうか「命の選別」をして、食糧や医療を配給せざるを得ないという、援助の現場の残酷な事実。深刻な栄養不良状態からの回復には綿密な医療的ケアが必要だが、専門家の数は常に不足しており、ただ食糧をカーゴで投げ落とせばいいというわけにはいかない援助の難しさ。
 飢餓が作り出される仕組みについては、いろいろな側面から多様な要因が説明される。独裁体制や権力者層の腐敗、内戦や資源を巡る紛争、新植民地主義経済による輸出用作物優先、穀物メジャーによる価格操作、そして耕作可能な農地そのものが激減している砂漠化の進行…。ユーゴ、ボスニア、リベリア、スーダンなどで兵糧責めとでもいえる「飢えを武器にした」抑圧が行われ、アメリカは食糧を武器に=飢えを武器にした対外政策や、より直接的な経済封鎖という暴力で抑圧する。
 大国や企業の思惑から自立しようとしたチリのアジェンデは、CIA と共謀したピノ・チェトのクーデターで殺害され、ブルキナファソのサンカラもまた、フランスの勢力によって切り崩された軍部のクーデターで、しかもかつての親友コンパオレによって殺された。  あまりにも深い現実の闇を語った上で、それでも著者は「ほんとうの出口」を目指すべく、市場原理主義(ネオリベの訳語にあてている)、金融資本の暴走を止めねばならないと言う。すべては繋がっているのだ。
 私たちはたぶん未来への岐路にいる。アグリビジネスでは後発組でしかないモンサントを相手にしているうちはまだ序の口で、市民運動がシカゴの農産物市場そのものを射程に入れるときが来るのだろうか…?(島田 kattac6号より転載)


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