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ATTAC京都 地方自治部会

はじめに

 はるか昔から、人間は自然にはたらきかけることによって生活に必要な物資をつくりだしてきました。そもそも経済活動とは、食べたり飲んだり、着たり、住んだりする生活に必要なモノやサービスの生産・再生産・交換の過程のことです。生産力が発展していくなかで、原料や機械、工場などの生産手段を所有する資本家が、労働者を雇って大規模に生産するしくみ(資本主義的生産様式)が登場し、次第に、「無限の成長(という幻想)」を前提とした、資本そのものの拡大再生産が、自己目的化するようになってしまいました。現在では、多国籍企業が地球規模で活動するようになることによって、「人間の生活領域としての地域」と「資本の活動領域としての地域」が大きく乖離していっています。このことが、地域社会にさまざまな問題を引き起こしているのです。

1、どういう問題が起きているか

地域の外へ

 日本では、とくに1980年代の後半から、企業の海外進出が盛んになりましたが、安い労働力をもとめて工場が海外に移転することで、産業の空洞化が進み、地域の雇用が奪われています。また、多国籍資本の海外収益の大部分は、本社が存在する一部の大都市に集中的に還流するので、この点からも地域間の格差が広がっていきます。

地域の外から

 また、大規模小売店舗法が規制緩和されることによって、工場跡地などへの大型店の出店が相次ぎ、個人商店が減少し、地元商店街が衰退していっています。
 こういうことの結果として、地域経済が著しく衰退し、地域で仕事に就いて地域で生活を続けていくということがたいへんに難しくなっているのです。

2、自治体をめぐる新自由主義的改革

従来の地域開発の問題点は?

 従来の地域開発政策は、「外発的発展」型とも呼ばれる、大企業や大規模開発プロジェクトの誘致に依存するものでした。しかし、このようなやり方は、企業の海外移転による産業空洞化や、大規模開発プロジェクトによる環境破壊と地方財政危機の進行を招いてしまっています。

小泉「構造改革」と地域・自治体

 こうした状況のもとで出されているのが、小泉「構造改革」ですが、これは、多国籍企業に選んでもらえる国づくり・地域づくりにほかなりません。2001年6月の「骨太の方針」では、「都市再生」に力点がおかれていますが、これは、一言で言えば、内外の多国籍企業の活動拠点をつくるための都市再開発のことです。そして、ここに重点配分する財源をつくりだすために、市町村合併を強力に推進して、中山間地域への地方交付税交付金を削減していこうとしているのです。
 従来の地域開発政策と小泉「構造改革」に共通するのは、地域をもっぱら「資本の活動領域」として捉えているということです。

自治体の市場化・民営化

 自治体の経営そのものを市場化し民営化していこうという動きも強まっています。「自立・自助・自己責任」という掛け声のもと、介護や保育など、福祉や教育などの公共サービス分野への民間企業の参入を進め、市場化・民営化していこうということです。また、NPM手法(注)の導入などの動きもあります。

(注)ニュー・パブリック・マネジメント。公的部門への市場原理や競争原理の導入によって行政内部の取引コストの削減をはかろうというもので、英国サッチャー政権の行政改革路線の理論的裏付けとなった。

「強い市民」にウケる施策

 こうした動きを推進しているのが、三重県の北川前知事や、東京都の石原知事です。神奈川県の松沢知事や横浜市の中田市長などもこの流れです。これらの首長は、市場化・民営化を進める一方で、情報公開制度の拡充など行政手続きの問題をはじめ、事後処理的な行政システムへの転換を重視していますが、このことが、とくに都市部を中心に高い支持を集めています。
 これは、新自由主義的改革による階層分化を前提にして、その上層階層が自分たちの要求を行政に反映する回路を拡大することによって、上層階層をより強固に統合に組み込んでいこうとする、いわば「強い市民」に適合的な行政施策なのです。情報公開制度の拡充そのものはもちろん歓迎すべきことですが、この流れのもとでは、下層階層が切り捨てられ、その声が聞こえなくなってしまう可能性が非常に強いことを見逃すわけにはいきません。

3、地域社会の持続的発展への道

 グローバリゼーションのもとでの地域社会の持続的発展を考える際に重要なのは、地域を何よりもまず「人間の生活領域」として捉えることです。

外来資本に地域貢献をもとめる

 地域に根をもたないけれども地域経済に大きな影響力を持つ外来資本に対しては、地域に対する社会的責任を求めていくことが必要です。一定規模の工場が閉鎖する場合は事前に地域住民に情報公開するように定めるとか、金融機関に対しては一定の投資枠をその地域に誘導する仕組みをつくるということが考えられます。

地域の中でおカネが循環するしくみをつくる

 また、地域の既存の産業を含めて、その地域で持続的に活動していける経済主体を 育てていくことも重要です。一定の地域の中で繰り返し投資できる経済主体――民間 企業、農家や商店など個人経営、協同組合、地方自治体・公社――を形成していくこ と、また、それら経済主体間のネットワークづくりが重要です。一言でいえば、グ ローバルなおカネの動きに対抗して、人間の基本的な生活の単位としての地域の中で おカネが循環するしくみをつくっていくことです。
 こうした産業政策と住民の生活向上を結びつける前提として、政策の形成・実施過 程への住民の参加が不可決なことは言うまでもないでしょう。

4、グローバリゼーションと京都

京都経済の特徴は?

 京都経済の特徴として、中小企業が多いこと、製造業のウエイトが高いことがあげられます。西陣織などの繊維工業、島津製作所や三菱自工などの金属加工業が、この製造業を牽引してきました。また、歴史観光都市として、流通・観光産業も重要です。

グローバリゼーションの影響

 このような特徴をもった京都経済は、グローバリゼーションの影響をまともに受けていると言えます。絹織物製品の逆輸入による西陣の苦境や、金属加工業の海外移転によるリストラと下請企業の切り捨て、規制緩和による大型店の進出と個人商店の激減などにより、京都経済は深刻に落ち込んでしまっているのです。

もう一つの京都は可能だ!

 こうしたなかでも、空き家になった町家を職住一体の機能を持った空間としてアーテイストたちに仲介し、新旧地域住民の交流をすすめることで、地域・経済・産業・観光の活性化をはかろうとする西陣の「町家倶楽部」の活動や、高齢化する地域の購買力を視野に入れ、「エプロンカード」と呼ばれるプリペイドカードを導入して、まちづくりと一体化した商店街づくりをすすめる西新道錦会商店街のとりくみなど、注目すべき動きがあります。
 こうした動きは、あらゆるものを商品化して地域住民の生活の場を破壊していくグローバリズムに対抗するような動きだと言えます。こうした動きが広がっていくならば、伝統を生かしつつ、地域の産業を守り育て、自然環境を大切にし、誰もが安心して住みつづけられるような「もう一つの京都は可能」なのです。

(最終更新: 2003年6月24日)


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