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ATTAC京都 トービン税(為替取引税)部会

環境・貧困問題解決の切り札!?
〜「トービン税」ってなに?

グローバリゼーションは私たちを幸福にする?

世界の貧富の差 世界の現状を語る際に、「グローバル化」あるいは「グローバリゼーション」という言葉がしばしば使われています。ヒトやモノやカネが、国境を超えて地球上を自由に動きまわる時代が到来したというのです。確かに、国境を超えて全地球規模で、人々のさまざまな分野での交流が深まっていくこと自体は素晴らしいことです。しかし、このグローバリゼーションは、世界中のすべての人々に幸福な生活をもたらしているわけではありません。

貧富の格差の拡大

 たとえば、国連開発計画(UNDP)『人間開発報告書(Human Development Report)1999年度版: グローバリゼーションと人間開発』は、「所得と生活水準の世界的な不平等はグロテスクなまでに膨らんだ」、「最も豊かな国々にすむ世界人口の5分の1と、最も貧しい国々の5分の1の人々の所得の差は、60年の30対1から、90年には60対1に、97年には74対1に拡大した」、「世界の億万長者の中で最富裕者3人の資産は、48カ国の後発開発途上国のすべてとそこに住む6億人の全GNP合計よりも多い」と指摘しています(右図参照)。

貧富の格差や飢餓の問題だけでなく、地球環境や途上国の累積債務などの問題も、解決に向かうどころかますます深刻になっているというのが、グローバリゼーションがすすむ現在の世界の姿なのです。

「新自由主義的グローバリゼーション」とは?

 このような事態が起きているのは、現在のグローバリゼーションが、「新自由主義」とよばれる考え方――「自由な市場原理」こそが経済を活性化させるとの理論にもとづいて、大企業への社会的規制を徹底的に取り払い、社会生活のあらゆる分野をカネ儲けのために開放しようという考え方――によって進められていることに大きな理由があります。

 そもそも、グローバリゼーションという言葉自体、ソ連・東欧諸国の崩壊によって市場経済が地球全体に広がったということを根拠にしています。市場経済が拡大するなかで、各国の多国籍企業は、激しい国際競争に打ち勝つために、労働者の権利をまもる規制や社会保障のための負担など、カネ儲けにとって邪魔になると感じられるものを徹底的に削ることを要求します。こうした要求を背景にして、世界中で新自由主義的政策が横行しているのです。小泉政権の「構造改革」もその一つのあらわれです。

 企業は、「経営合理化」の名のもとに労働者を切り捨て、人件費が安く福利厚生もカットできるパート労働を増やしていきます。また、利潤追求のために、生命や水なども含めて、あらゆるものを商品化しようとします。カネ儲けのためには人々の健康や地球環境でも犠牲にしてしまうのです。たとえば、第三世界においては、水の自由化・民営化によって水源が企業の所有物となったため、水を買えず、不衛生な水たまりの水などしか飲めない人々が年々増えています。

国際機関はどうなっている?

 IMF(国際通貨基金)WTO(世界貿易機関)といった国際機関も、多国籍企業の利益をまもるための機関になってしまっています。IMFは、先進国からの莫大な借金に苦しむ重債務国にたいして、「構造調整プログラム」とよばれるものを押し付け、貿易自由化を奨励するとともに、国内の環境や健康、教育、福祉、労働者の生活をまもる予算や制度を削らせています。また、WTOのルールでは、自由貿易の推進がまず優先されるため、これを妨げる各国の政策は、たとえ環境や健康をまもるためであっても、危険性を示す明確な科学的証拠がない限りは「貿易の障害物」と見なされ、撤廃するようもとめられるのです。

金融投機の横行

 このように、大企業の利潤を最優先する新自由主義的グローバリゼーションが、環境問題や貧困問題などを激化させているのです。こうしたグローバリゼーションのなかでも、最も大きな力を持っているのが、株式や為替の取引きに関わる投資家=金融資本です。企業も政府も投資家からの評価を最も重視します。

 金融資本がどれほど大きな力を持っているかは、為替取引額の膨張からも分かります。1970年代はじめには1日に180億ドルだった為替取引額は、1990年代半ばにはなんと1日に1.3兆ドルにもなりました(1970年代はじめの70倍!)。全世界の年間の商品輸出額がおよそ5.3兆ドルですから、わずか4日間の為替取引でこれと同じ額になってしまうのです。

 こうした金融取引の増大を背景に、1994年のメキシコ通貨危機や1997年のアジア通貨危機のように、投機的な為替取引が一国の通貨を暴落させ、経済をメチャクチャに破壊するという事態さえ起きるようになったのです。私たちの運命が、ごく少数の国際金融資本家の手に握られてしまっているのです。

 こうした金融資本の支配に対抗する手段はないものでしょうか? 一発逆転のチャンスはないこともありません。金融資本の巨大な歯車に一つかみの砂を投げ入れる作戦、それが「トービン税」(為替取引税)なのです。

「トービン税」ってなに?

 トービン税は、もともとは、ジェームズ・トービンというアメリカの経済学者(1981年度のノーベル経済学賞受賞者)が、1972年に提唱したものです。これは、為替取引にごく低率の税を課すことにより、金融市場の不安定性を減少させることをねらったものです。

 このトービン税を導入した場合、一体どれくらいの税収があがるのでしょうか? 1995年時点の為替取引額をもとに、為替取引に0.1%のトービン税を課した場合の税収を単純に計算すると、3120億ドルになります。1998年のOECD諸国のODA総額が518億ドルですから、ほんのわずかな税率のトービン税がいかに巨額な税収を生むかが分かります。

 もっとも、最近は為替取引額はやや減少傾向にありますし、トービン税の導入そのものが為替取引を抑制する効果を持つので、実際の税収はここまで巨額にはならないと考えられますが、それでもかなりの額の税収があがることは間違いありません。

 したがって現在では、トービン税にたいして、投機的取引を抑制する役割だけでなく、途上国の累積債務や貧困、環境破壊などの問題の解決をはかるための資金源としての役割が期待されているのです。国連の推計によれば、世界の貧困をなくす基礎的社会的支出に必要な金額は年間400億ドルであり、世界の最貧41カ国の累積債務総額は1998年で1690億ドルですから、トービン税の導入が、これらの問題の解決にむけた新たな展望をひらくことが期待されているのです。

トービン税導入をもとめる運動

 1997年のアジア通貨危機を受けて、ヨーロッパやアメリカ、カナダのNGOを中心に、トービン税の導入をもとめる運動が大きく広がってきました。1998年には、フランスで、トービン税の導入を主要な目的に掲げたNGOとして、ATTAC=「市民を支援するために金融取引への課税を求めるアソシエーション(Association for the Taxation of financial Transactions for the Aid of Citizens)」が誕生しました。

各国議会関連の動き

 トービン税の導入をもとめる運動の盛り上がりは、各国の議会をも動かしつつあります。1999年にはカナダ国会が、世界ではじめて「早期に導入すべきだ」との決議を採択しました。2000年1月にはイギリス下院が、政府に検討をうながす決議をおこない、同年4月にはヨーロッパ議会が、導入の「具体的条件」を検討する決議を否決しましたが、票差はわずかなものでした。そして、2001年11月にはフランス下院が、ヨーロッパ連合全体で導入するならば、という条件つきで、トービン税の導入を法律化しました。また、インターネット上では「トービン税導入を求める世界議員(World Parliamentarians Call for Tobin Tax)」という署名サイトもあり、2003年3月13日現在、864名の各国議員の署名が集められています。

導入にむけての課題

 運動が盛り上がってくるなかで、トービン税の導入は、たんなる抽象的な展望としてではなく、具体的で現実的な提案として提示することがもとめられるようになってきています。課税についての技術的な問題をはじめ、管理主体をめぐる問題――どのような機関が徴税をし、その税収をどのように再配分するかの問題――など、多くの解決すべき問題があり、運動をすすめる側でもさまざまな議論がなされています。今後、この日本でも、トービン税についての研究と議論をすすめていく必要があります。

おわりに

トービン税は現在の世界の諸問題にたいする万能薬ではありません。しかしそれは、国際政治と人々の暮らしが一部の超大国や巨大多国籍企業の利害によってもてあそばれることのない民主的な「もう一つの世界」の創造にむけて、確実な第一歩となるでしょう。大切なのは、世界中の人々といっしょに、私たちの未来を私たちの手に取り戻すこと、民主主義を取り戻すことなのです。

(最終更新: 2003年6月24日)


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